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東京地方裁判所 平成6年(ワ)11157号 判決 1999年12月27日

原告

株式会社高島易断総本部

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

田中英雄

右補佐人弁理士

被告

右訴訟代理人弁護士

山崎正俊

右補佐人弁理士

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、その営業上の施設又は活動に「東京高島易断運命鑑定」「高島易断洗心館総本部」の表示を使用してはならない。

二  被告は、原告に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成六年五月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、営業において「東京高島易断運命鑑定」又は「高島易断洗心館総本部」の表示を使用する被告の行為が、主位的には、不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争行為に該当すると主張して、予備的には、原告、被告間で締結された契約に違反すると主張して、原告が被告に対し、右表示の使用の差止めと損害賠償の支払を請求した事案である。

一  前提となる事実(証拠を示した事実以外は、当事者間に争いはない。)

1  原告

原告は、平成二年に有限会社高島易断総本部として設立され、平成四年に、株式会社に組織変更された。原告は、「高島易断総本部」の名称で、「高島易断運命鑑定」の表示を用いて、高島易断による易占業務を行っている(有限会社から株式会社への組織変更につき、弁論の全趣旨)。

なお、原告代表者は、昭和五八年ころから高島易断総本部発真会なる団体を設立して、高島易断を含む表示を用いて易占業務を行っていた(甲二三(枝番号は省略する。以下同様とする。)、乙二七、弁論の全趣旨)。

2  誓約書

被告は、研修生として原告に入社し、平成三年三月一八日及び同月二八日付けで、原告に対して(ただし、書面上は高島易断総本部発真会あてである。)、原告を退社した場合には、「高島易断」及び「高島」の号名は一切使用しない旨の誓約書(以下「本件誓約書」という。)を提出した(本件誓約書の内容については甲一、三)。

3  被告の行為

被告は、平成五年二月一四日ころ、原告を退職した後、高島易断を含む表示を用いた易占業務を営む東京高島易断大慈会総本部に加入し、F又はGと称した(弁論の全趣旨)。

被告は、平成六年三月五日から同月一四日まで、石川県金沢市内のホテルにおいて、連日相談会を開催し、その直前ころに、「商標登録正統易学・気学・運命学の最高権威東京高島易断運命鑑定」「東京高島易断大慈会総本部」等と表示した広告チラシを大量に作成して配布した。また、同月一九日ころ、右同様の広告チラシを大量に配布して、同日から同月二八日まで、東京都足立区内のホテルにおいて、連日相談会を開催した。

被告は、平成七年ころ、仲間とともに高島易断洗心館総本部なる名称の団体を共同設立し、その主宰者となっている。高島易断洗心館総本部は、「高島易断運命鑑定」の表示を用いて、易占業務を行っている。

二  争点

1  「高島易断総本部」「高島易断運命鑑定」は、原告の周知な商品等表示か。

(原告の主張)

「高島易断総本部」「高島易断運命鑑定」は、原告の周知な商品等表示である。

原告代表者の亡父は、高島易断の開祖であるHの東洋運命学・易学等の系統的な研究を永年続けたが、原告代表者は亡父から高島易の運命学・易学を教えられ、昭和五八年、高島易断総本部発真会なる団体を設立し、易業界において一番早く組織化し、高島易占に関する一定の基準とその慣習等を制度化した。

原告代表者は、同年ころから、「高島易断運命鑑定」「高島易断の人生相談」「高島易断総本部」「高島易断発真会」等の名称の下に、全国の主要都市等で定期的に易学鑑定業務を行い、平成二年に原告を設立した。原告は、常設の鑑定所及び修法所において、常時鑑定業務を行っているほか、全国の主要都市のホテル等に出張して、鑑定業務を行い、新聞折込チラシ等により広告宣伝している。また、暦を毎年発行したり、機関誌を発行するなどの活動をしている。

「高島易断総本部」は、原告の登記されている商号であり、「高島易断運命鑑定」なる表示は、原告の商品等表示であり、いずれも易学の鑑定業界においては、全国に広く周知されている。

「高島易断」は、一般名称ではなく、易学の一派の名称であり、易占一般と区別される特別顕著性を有する。仮に、第三者において「高島易断」の名称を用いることが許されるとしても、「高島易断総本部」「高島易断運命鑑定」は、特定の易占方式を用いた人生相談を業とすることを表示する名称であって、単なる「高島易断」による易占とか人生相談とは明らかに区別される表示であり、一般名称ではない。

(被告の反論)

「高島易断」は、易ないし運命鑑定についての一般名称であり、不特定多数の者が運命鑑定、コンサルタント業務に右名称を使用しており、「高島易断」の表示には自他識別力がない。したがって、「高島易断総本部」「高島易断運命鑑定」にも自他識別力がない。

原告が「高島易断総本部」を含む表示を使用し始めたのは、平成四年四月以降であるが、使用したのは「高島易断総本部発真会」との表示である。また、原告が「高島易断運命鑑定」の表示を使用し始めたのは平成五年二月以降である。他方、被告(高島易断大慈会総本部)は、平成元年当時から、既に「高島易断運命鑑定」ないしは「東京高島易断運命鑑定」の各表示を使用している。

2  「高島易断洗心館総本部」「東京高島易断運命鑑定」の各表示は、それぞれ「高島易断総本部」「高島易断運命鑑定」に類似するか。

(原告の主張)

被告が使用する「高島易断洗心館総本部」の表示は、「高島易断総本部」の表示が周知であることを考慮すると、これに類似する。

被告が使用する「東京高島易断運命鑑定」の表示は、「高島易断運命鑑定」に「東京」という地名を付加したに過ぎず、また、その使用状況をみると、「東京高島易断運命鑑定」の文字のデザインは、原告の使用する「高島易断運命鑑定」の文字のデザインと同一であり、「東京高島易断運命鑑定」の表示は「高島易断運命鑑定」の表示に類似する。

(被告の反論)

原告の主張は争う。

3  被告は、「高島易断」及び「高島」を使用しない旨の契約に違反する行為をしたか。

(原告の主張)

被告が原告の営業表示と同一又は類似の表示を使用して、原告の営業と誤認混同させる行為を行うのを未然に防止するため、原告が被告と、競業的行為の禁止を合意することは、合理性がある。

被告は、原告に対し、本件誓約書を提出して、被告が原告を退職した場合には、易占業において「高島易断」及び「高島」の商品等表示を使用しない旨の、競業的行為禁止の特約をした。被告の行為は、右禁止特約に違反する行為である。

(被告の反論)

(一) 被告は、内容を理解する余裕もなく本件誓約書に署名したのであり、本件誓約書には拘束力がない。

(二) 被告が、原告を退社する際、原告に積み立てていた積立金を放棄し、原告から預かった品物をすべて返還することにより、原告は、被告が高島易断の易占業を続けることに合意していた。

(三) 「高島易断」は、易占業者により、永年使用されてきた普通名称又は慣習商標であり、これらの使用を禁止することは、被告の将来の営業の自由を著しく侵害する。本件誓約書には、禁止期間の制限の記載がない。このような、包括的、永続的な営業態様の制限に関する合意は、無効である。

4  損害額はいくらか。

(原告の主張)

被告の行為により、原告は、企業イメージ、信用等が低下する等の損害を受けた。これらの損害を金銭に評価すると、二〇〇万円を下らない。

(被告の反論)

原告に損害は発生していない。

第三争点に対する判断

一  争点1(周知な商品等表示)について

1  前記第二、一の事実及び証拠(甲一二、一三、二八、四〇、四五、四六、乙一、二、五、七、二七、二九、三三ないし六五、七三ないし七八)によると、以下の事実が認められる。

(一) Hは、明治時代に、易経を研究して著書「高島易断」を著し、独自の易占を創案した。「高島易断」の名称は、Hが創案した易を示すものとして使用された。しかし、Hの没後、高島(高嶋)の名を名乗り、高島易断の名称を含む表示を用いて、易占業を行う者が現れるに至った。これらのうち、Hの縁者ないしは門下生はいない。昭和二〇年代には、「高島(高嶋)」ないしは「高島易断(高嶋易断)」の名称を使用する易者が、多数存在するようになった。当時、「高島易断総本部」という名称の団体も存在し、また、「高島易断所本部神宮館」という名称の団体が毎年高島暦を発行していた。

(二) 原告代表者は、昭和五八年、高島易断総本部発真会を設立したが、そのころまでには、そのほかに「高嶋易断所総本部」「全日本高嶋易断總本部」「高島易断紫雲閣総本部」「東京高島易断神相館本部」「本家高嶋聖易断総本部」「高島易断総本部神聖館」等、「高島(高嶋)」ないしは「高島易断(高嶋易断)」を含む名称を付し、「高島(高嶋)」の姓を名乗る易占業者が多数存在していた。現在も、「高嶋易断総本部敬神館」「高嶋易断日聖館総本部」「高嶋易断本部神明館」等、「高島(高嶋)」ないしは「高島易断(高嶋易断)」を含む名称で易占業を営み、「高島(高嶋)」の姓を名乗る易占業者が多数存在する。

(三) 「高島(高嶋)」ないしは「高島易断(高嶋易断)」が含まれた登録商標としては、「高島易断相談内容統計」「高島易断西日本総本部」「高島易断本部天聖館」「高島易断本部」「高嶋易断三世霊宝閣総本部」「高島易断神修館」「高島易断正道会総本部」等がある。

(四) 原告は、平成四年、「高嶋易断」「東京高島易断」の各文字からなる各商標について、占い業・易業を指定役務として登録出願をしたが、指定役務に使用する場合の識別力はないとの理由で、拒絶理由通知が出されている。

また、指定役務を易とし、「高島易断総本部」の文字からなる登録商標(商標権は原告が有していた。)に対する無効審判において、右登録商標は、需要者をして、何人の業務に係る役務であるのかを識別することができないものであり、商標法三条一項六号に該当するとして、右登録商標の登録を無効とする旨の審決が出され、右審決は確定している。

(五) 前記のとおり、原告代表者は、昭和五八年に高島易断総本部発真会を設立して、高島易断の名称を含む表示を使用して易占業務を開始し、平成二年に原告を設立した。原告は、平成五年ころから、その広告において「高島易断運命鑑定」の表示を使用するようになったが、他方、単に「運命鑑定」を表示として使用することもあった。

2  以上のとおり、Hは、「高島易断」を著し、「高島易断」と称する易占を創案したが、同人の没後ころから、同人の縁者ないし門下生ではないにもかかわらず、「高島(高嶋)」ないしは「高島易断(高嶋易断)」を含んだ名称を使用し、また、右各名称とともに、「総本部」ないしは「本部」付して、易占業を行う者が、多く存在するようになった事実経緯に照らすと、「高島(高嶋)」ないし「高島易断(高嶋易断)」は、易占業そのもの、ないし易占業の組織、団体を指す一般的な語であり、また、「総本部」ないし「本部」も、組織、団体の中心的機関という一般的な語であり、いずれも、特別な意味はないと解するのが相当である。

したがって、原告の使用に係る「高島易断総本部」及び「高島易断運命鑑定」は、いずれも、一般的意味を有する言葉である「高島易断」と「総本部」ないし「運命鑑定」とを組み合わせたに過ぎないものであり、一般利用者に対して、その役務の出所を表示する機能はないと解される。確かに、原告は、「高島易断総本部」の表示を使用して、新聞に折込広告を入れたり、新聞、電話帳等に広告を掲載したりするなどの宣伝活動を行い、高島暦を発行するなどし、また、雑誌等に原告の記事が掲載されたりしたことがあることは認められるが(甲一二、一三、二〇、二三、二四、二七、二八、三三、三四、三五、三七、乙二七)、「高島易断」が広く一般の易占業において使用されている経緯に照らすと、右のような原告の営業活動をもっても、「高島易断総本部」が原告の周知な商品等表示であると解することは到底できない。

以上のとおりであるから、不正競争防止法に基づく原告の請求は、理由がない。

二  争点3(契約違反)について

前記第二、一2のとおり、被告は、原告に入社し、平成三年三月一八日及び同月二八日付けで、原告(ただし、書面上は「高島易断総本部発真会」あて)に対し、原告を退社した場合には、「高島易断」及び「高島」の号名は一切使用しない旨の本件誓約書を提出したことが認められる。しかし、前記一のとおり、原告代表者が高島易断総本部発真会及び原告を設立した当時、既に多数の易占業者が、その営業に「高島易断」を含む表示を使用し、また、多くの易占業者が、「高島」の姓を使用していたこと、前記のとおり、「高島易断」は、易占業ないし易占業の組織、団体を示す一般的な名称であると解されること等の経緯に鑑みれば、「高島易断」及び「高島」を含む表示、姓を、一切(期限の定めもなく)使用しないと約したものと理解される本件誓約は、被告に対して著しく不合理な内容の義務を負わせるものといえるから、原告、被告間の右名称不使用に関する右合意は、公序良俗に反し、無効であると解すべきである。

よって、契約違反を理由とする原告の請求は理由がない。

三  以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないので、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 石村智)

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